アメリカのレジースミスベースボール本社で従事した2002年当時、守備に関する野球指導を非常にユニークな方法へ変更した時期がありました。それが右足前捕球です。当時の野球指導の常識では右利きは左足前で捕球することが伝統的な野球指導でした。しかし、メジャーリーグで名手と呼ばれる遊撃手や二塁手のラテンアメリカの選手達が右足を左足よりも前に出して捕球している光景が多くなりました。そんな中、スミスが現役時代のマーシャルアーツ<総合格闘技>の師匠とニューヨークで会談した時に、「人間が普通に歩く時は左手を前に振った時には右足が交互に出てくるから、グラブを左手にしている選手がゴロを捕球する時は間違いなく右足が前の方がバランスが良い」という言葉にヒントを受けて「明日から右足前捕球で指導をする」と言われました。はじめてそれを聞いた私は「まさか!?」と思いましたが、スミスからその指導方法のレクチャーを受けて実践してみたところ、ゴロを捕球しやすくなりました。
それでは下記の映像をご覧下さい。青のユニフォームがシカゴ・カブスのカストロ遊撃手21歳<ドミニカ共和国出身>赤のユニフォームがボストン・レッドソックスのイグレシアス遊撃手22歳<キューバ出身>です。
この映像からも分かるように、ほとんどのゴロを右足前で捕球していることが分かります。それではそのメリットを解説します。
①バランスの良いフォームを維持できるために安定感があり、左腕の操作がしやすくなる。
②グラブ側の足が後ろにあることでグラブ操作をするスペースを十分に確保できる。
③ハーフバウンドに対してグラブを引いて捕球することで、ハーフバウンドから大きなバウンドに変えることができる。
④捕球後にすでに一塁方向にベクトル<力の向いている方向>が向いている。
ラテンアメリカの選手達は貧しい環境で育っているために、グラブはダンボールの切れ端を利用し、グランドはデコボコで石だらけという環境でプレーすることでこうした技術が身についたと言われています。カストロ選手とイグレシアス選手のように若い世代の選手が見事に右足前で捕球をする姿を見ると、とうとうその時代が来たのではないかと思います。右足前捕球の指導を始めてから10年が経過し、改めて時代がやっと追いついて来てくれているのではないかと思います。