日本人でもメジャー流ができる理由

 それでは今回は日系3世のメジャーリーガー、オークランド・アスレチックスのカート・スズキ選手を紹介します。
祖父母が名古屋出身でハワイ生まれのスズキ選手は純粋な日本人ですが、パワー溢れる打撃と正確なスローイングはメジャー屈指です。かなり高い確率で体力のない日本人にはメジャー流は難しいと思っている方々がいると思います。しかし、スズキ選手の動作を見ると同じ日本人ですが、下の映像を見ても分かるようにメジャー流の動作をしています。

 打撃ではアッパースイングで最後まで思いきり振り抜き、最初から最後まで同じ軸を維持しながらスイングをしています。、また、スローイングにおいても両手の割りをしっかりと作り、大きなテイクバックから正確で強いボールを投げています。恐らくこの映像を見た方はテイクバックが大き過ぎて遅くなるのでは?と、思われる方もいると思います。これは日米のスローイング指導の考え方に大きな違いがあります。大きくテイクバックし、上から素早く振り下ろすように投げることで横へのボールのブレを防ぎ、正確なスローイングを可能にします。また、体全身で投げることで力のある強いボールを投げることができます。また、肘や肩への負担も少くなるので故障を防ぎます。
 その理由には捕手は他の野手に比べて非常に多く球数を投げなければいけないために、正しいスローイングができないと簡単に肘や肩を故障につながるからです。メジャーリーグではレギュラーシーズンが162試合、そしてプレーオフに進出するとさらに試合数が増えるからです。以前、元シカゴ・カブスの2Aの韓国人選手のリハビリを手伝った時に、「マイナーの捕手コーチに投げ方を大きくするようにアドバイスされたけど、その時すでに十分にタイムが良かったからスローイングを修正する必要がないと思って直さなかった。でも、今は肩を壊してしまったので、とても今、後悔している。」と、話していました。

 
 私がロサンゼルス・ドジャースの通訳をしている時に当時の近鉄バッファローズの捕手がドジャースのキャンプに参加している時に「メジャー流だと遅くなるから大きく投げたくない」と捕手担当のコーチに話をしたところ、「それでは大きく投げるメジャー流と小さくテイクバックする日本式とでタイムを計ろう」ということになりました。結果は同じタイムでした。要するに同じタイムならどちらを選ぶかになります。同じタイムなら制球力があり、故障をしない投げ方がやはり理想なのではないかと私は思います。

 すべての理論に裏付けがあり、それらの理論を理解しようとすることが非常に大切だと信じております。先入観が人間の視野を狭めるのではないかと思います。世界で通用するような選手を育成するためにどうか指導者の方にはそうした先入観を取り払って欲しいと思います。